昔書いた懐かしいSSが出てきたので転載です。
ちょっと携帯でサイトできるかなーと思って携帯サイトを作って載せたものなんで、もしかしたら見た人いるかも?たぶんいないと思いますが。阿部の誕生日の時ですね。春なのに冬の話…。
小話をメールで打って載せるのに携帯サイトいいかなーと思ったんですが、メールで打って反映といかないのがわかって途中挫折しました…今見るとよー携帯でチマチマ打ってたな。すばらしく簡潔な話だ…
12月11日、PM8:00。
その日はいつものように朝練をして、授業を受けて、野球部の練習をして、そしていつものように道を帰れば、母親から「おかえり」の声が聞こえる……はずだった。
―――玄関の前に、懐かしき戸田北時代のピッチャーを見つけるまでは。
「よ」
「……ど、も」
まるで昨日も会った友人のようにサラリと言ってのけた榛名に、久しぶりという感覚は自分だけなのかと錯覚する。別に「久しぶりだな」と言って昔を懐かしんで欲しいわけでもなかったけれど。
「どうしたんですか?」
「ン?ああー…ちょい今日近く来てたからついでに、な」
「そッスか」
近くと言う事は1kmほど西にある高校を指すのだろうか。確かあそこは工業高校で野球部はさほど強くなかったはずだが、近くという立地条件で榛名がわざわざ寄るとしたら、その場所くらいしか思い浮かばない。
「んっだよ!オレがワザワザ来てやったんだからもっと嬉しそーな顔しろよなー」
勝手に来ておいて、勝手な事を抜かす。
「はあ?なんでだよ」
はっきり言えば、こんな寒い日はとっとと家の中に入りたい。ゴール寸前で思いもよらない足止めを食らわされて、文句はあれど感謝なぞしようはずがなかった。
「あいっかわらずナマイキ!」
「そうですか、すみません」
「テメ、謝りゃいいと思ってんだろお前」
「別に思ってませんけど」
ああ言えばこう言う。久々に懐かしくもありがたくない言葉の応酬に阿部は辟易する。ちなみに『お互い様』という言葉は阿部の辞書にはない。
「あーあ、なんだか来てソンしたな」
チ、と短い舌打ちをして、榛名は一歩阿部に向けて踏み出してきた。
「……得って何スか」
「ああ?得はナニって、得は得だよ」
「なんだよそれ」と言おうとした阿部に榛名が顔を近づけて、キスをする。
「……!ちょ、」
思いもよらない不意打ちに頭を振って後ずさる。
「得、な」
ハハ、と笑っている榛名のキスは、軽く触れる程度のたわいないもの。それでも榛名の唇は阿部の何倍も冷たい感触がした。
「モトキ、さん。どんだけ待ってたんですか。」
一体、この寒空の下を、どうして。
阿部が質問を投げかけても、榛名は手を振って歩き始めてしまう。
「元希さん!」
「じゃなー」
手を振る榛名は、いくらもしないうちに夜の帳の中に溶け込んでいった。
何故、突然のように現れて消えるのかわけがわからずに困惑する。
それでも唇が覚えている冷たさはリアルに残っていて、嘘ではないことを阿部に伝えていた。
(2007.12.12)